お店を「育てる」という楽しさ
中央区赤坂の交差点そばに、古くからある喫茶店。
子供のころ、店前を通っても「大人の領域」を感じさせるお店なので、なかなか中に入るタイミングがなく、今に至るのですが…。
多分、あの頃と同じ外装。
表通りというのに、この一画だけ静かで変わらない様子。
お店の入口辺りに、店名と1974年とある。
なるほど~、アナタも歳を重ねて、良い感じですね~っと、心でつぶやきながらドアを開けて入ってみたら、そこは確かに1970年代の雰囲気。
初めての訪問なのに、なんだか懐かしい。
お店作りという職業に付いた頃、諸先輩方が嬉々としてプランしていた店のようで、当時流行っていた、レンガ・突板・全てオーダーの什器・塗り壁…
あぁ素敵!
半世紀前、お店づくりは全てが特注品。
什器などは、家具職人さんが作ってましたから、ズシっと重かったものです。
その代わり、何十年経っても壊れないのです。
これは、エコだな~。
テーブル席に座ってカフェオレを飲みつつ…店内を物色。
床がカーペットなんだ~。
一般的に、飲食店の床にカーペットを貼ると、コーヒーのシミが気になる。
当然、ここも見事にシミだらけなのだけど、照明が薄暗くて深い雰囲気だからなのか、気にならない。
カウンターとテーブル以外は、ブラケットライトがふわっと灯っている。
この照度具合も、人が思考したり、ぼんやりと息抜きしたい時にピッタリな暗さなのです。
お店の雰囲気は照明の役割です。
その灯具合で高級感や親しみ、モダンという風に感じさせてくれるのです。
見せたいところと見せなくても良いところを「分ける」、というのも照明配置のセンスでしょう。
壁や天井に目を向けると、塗り壁なのでしょう。
刷毛を回したような仕上がりに、光が当たって陰影を作り、ドラマティックな表情になっていて、思わず見入ってしまいます。
それにしても、しっかりと手をかけた物は、半世紀経っても、まだまだしっかり活躍してくれているんだな。
そこかしこに職人さんたちの「手」が見えるようで、不思議な安堵感。
傷もシミも、剥がれだって、元がしっかりしているから、「味わい」となるのですね。
もしかして…お店って、お客様とオーナーさんの心地良い会話を聞きながら、共に歳を重ねているのかもしれません。
そう思うと、お店を育てていく、という楽しさってあると思いませんか。
人間同様、「感じ良く古くなっていく様」を眺めながら、また、この喫茶店でゆっくりしましょう。