古き建築物を訪ね、新しい立体デザインのヒントにする
温故知新
古いものをたずね求めて新しい事柄を知る
糸島市の平原(ひらばる)歴史公園〜九州最古の住宅と言われる「藤瀬家住宅」を訪ねて
10月中旬、糸島の店舗施工現場の帰りに、ふと「平原歴史公園」のことを思い出して、良い天気だし次の現場時間にも少々余裕があったので、突発的に「行ってみたい!」となり、立ち寄ってきました。
平原歴史公園は、個人的にコスモス畑を見に度々訪れるスポットなのですが、平原歴史公園の一角に移築復元され九州最古の住宅と言われる「藤瀬家住宅」は、まじまじと見学したことはありませんでした。
今回、一般の観光の方が中に入って見学されているのを見て「入れるんだ!」ということに気づき、私も見学に。
この「藤瀬家住宅」は、元々糸島市神在地区に江戸時代の中期、元文2(1737)年に建てられたものです。
つい20年程前の平成12年まで実際に住まわれていた家屋だそうで、平成12年に全面改築が計画されたため、市の教育委員会が解体された建築材を藤瀬家から譲り受け、平原遺跡環境整備工事にあわせて平原歴史公園の一角に、江戸時代の住宅を知る貴重な建築物として移築し復元されたそうです。
昨今の建築物では、古民家ブームもありますが、鉄筋コンクリートなどの建築が乱立する中で、移築ではありますが木造建築が283年間存在しているということは、「木造は強い」という生き証人とも言えるのではないでしょうか。
福岡西方沖地震や幾度となく襲う台風にも耐えてきた280年以上もの間健在する「木造建築物」。
こんな素晴らしい建築物が、私たちの住む福岡市近郊のすぐ側にあるにもかかわらず、空間をプロデュースする建築業を生業としている者としての勉強不足を反省しながら、建物内外をジックリ見回ることにしました。
まずは、「藤瀬家住宅」建物の外観から。
寄棟造茅葺(よせむねづくりかやぶき)工法です。
縁側の上の屋根を支える柱と桁(けた:横向の木材)の接合部の柱の前から一部出ている突起の部材を実(さね)と言います。
柱に実がかろうじて貫通する程度の穴を精巧にくり抜き、桁を切り欠いで実を一体化して作り差し込んで組み上げます。
さらにずれない様にくさびを打ち込み補強しています。
現在も木造建築でこの工法は引き継がれ、目にすることも多いのですが、私たち店舗デザイン・設計業界では不燃仕様の条件が多くなっていることから、木を使用する事に制限があり、なかなか寄棟造茅葺(よせむねづくりかやぶき)工法の技術を使用する機会がなくなってきています。
環境や安全の観点から、日本の建築様式の一つである昔ながらの「数寄屋(すきや)建築」を理解している大工さんも、かなり少なくなってしまっている現実があります。
上記の写真が「藤瀬家住宅」の玄関、店舗で言えばファサードになります。
木板の部分は幅1軒(181.8㎝)足らず、高さも概ね1軒程度。
障子の部分が引戸で、そちらから出入りしますが、こちらの高さは4尺(120㎝)程度です。
現代の日本人の背丈では、腰を曲げてかがんで入らないといけないほど小さな玄関です。
藤瀬家住宅の内装はこんな感じです。
大きな柱を支えに部屋を構成しています。
部屋の真ん中には囲炉裏があり、家族全員が囲炉裏に集まっていた事が伺えます。
L型に広がる大広間の奥で家事仕事をしている大人たち、そして手前の広間で遊ぶ子供たちなどなど…。
室内の見通しが良いので、いつも気にかけておく事ができるのはいいですね。
現代社会においては、プライベートが尊重され一家団らんのシーンも少なくなりましたし、2020年初春からの新型コロナウィルスの発生で、人々が集まれない状況の中において、「個を尊重する空間づくり」が求められている様な風潮を感じます。
プライベート空間を守りつつ、皆が集れる空間を併設することがポイントになると思います。
現在の家庭に炊飯ジャーが当たり前にある様に、昔は土間には釜戸が普通にあって、土間でお米を炊いたり味噌汁を作ったり調理をしていました。
今、店舗として「窯」を造りたいといって業者さんに発注しようとすると、業種的には「左官屋さんかな?」と思いますが、需要は皆無です。
しかし、過去を紐解いて再現することは当然可能です。
釜戸や囲炉裏で出た煙を屋外へ逃さないと、部屋中が煙たくなります。
そこで考案されたのが、日本建築の優れた機能の一つといわれる〝茅葺屋根〟ですね。
外からの雨風を防ぎつつ、室内の「換気」をしてくれるという昔の人の知恵。
日本建築にはそういった知恵が随所に見えます。
しかも当たり前のことですが、ビスやボルトなどを一切使用せず作られる建築は「ス・ゴ・イ」としか言いようがありません。
そして、美しく見せるという〝美意識〟も兼ね備えているという見事な建築が多い様に思えます。
茅葺屋根の構造も理にかなっていると思いますが、やっぱり個人的にはその外観<フォルム>に惹かれます。
と、同時に〝和〟の「安心感」と、日々の忙しい日常を忘れさせてくれる「癒し」の空間に、まるで時間が止まっている感覚に没入してしまいます。
古き良きものを時間の許す限り、見たり触れたりして、新しいものへ活かす、まさに「温故知新」。
今後もこのような空間プロデュースの勉強を定期的に怠りなくやっていきたいと思うひとときでした。
お近くにお寄りの際は是非お訪ねください。
詳しくは、